原因不明の死に至る病

症例画像

2000年春、バタバタと二歳魚が死にました。その症例及び状況をご報告します。

この数年、各地で原因不明の鰓病、もしくはそれに付随する病気でらんちゅうやその他金魚の大量死の報告があり、多くの愛好家がその原因を探っていますが、未だに明確な治療法は発見されていません。

我が家でも昨年の秋口に一池の当歳魚が相次いで死亡。この春に20尾ほど残っていたその明け二歳魚が死に、現在では僅か2尾を残すのみとなってしまいました。

不思議なことに、親魚は抵抗力があるのか発病しませんでした。かえすがえす残念なことですが、皆さんに広く知っていただき、供に予防、治療方法等を模索して行きたいと思います。

それでは、発病状況等、気が付いたことを列記していきます。

1999年10月、長雨が続き、水温も20〜25度で朝晩も漸く涼しくなって来たと感じられる頃でした。

一池だけ何故か青水にならない池があるのに気が付きました。餌は普段通り食べていると思っていましたが、この時点で魚の新陳代謝が緩慢になり、発病に至っていたのではないかと推測されます。要するに、体内は既に病に犯されていたのではないでしょうか。

そうこうしているうちに、1尾、そして1尾と落ちて行きます。生きている魚も呼吸が激しく、かなり苦しそうです。肉瘤は無くなりやせ衰えていくのが良く分かりました。

水換え、塩、薬品等を試してみましたが、どれも効果は無いように思われました。体表面は白いシスト(塊)がところどころに浮いています。

そして全滅。秋口は一池だけの発病で、その他の池では発生しませんでした。

ところが、この春、前述のように水温が20〜25度でまたしても発生。恐らく、秋口の菌がそのまま残存し、最適温となり、菌の繁殖によって大量死に繋がったのではないかと思われます。

以下に、この春の罹病魚の画像を表示します。

死の直前の画像です。痛たましいほど肉瘤が削げ落ちています。肉瘤のいたるところに白いシストが観察出来ます。寒い時期に白い脂肪が出ているのとは明らかに違います。体表面にも同じようにシストが見られます。

死亡直後の画像です。この魚も同じような症状を呈しています。側線に沿ってシストが見られ、色艶も斑になっています。

前出の魚の上見です。このままの状態で浮いて死んでいました。

この魚は、かろうじて生き残った2尾のうちの1尾です。シストが出来、この魚も駄目だろうと思っていましたが、何とか持ちこたえてくれたようです。前出の魚と比較して、肉瘤の落ちも少ないですし、軽症だったのかもしれません。ただ、何故軽症なのかの説明は今のところ付きません。

さて、この病気に関して私なりの考察をまとめてみます。

[該当疾病についての推測]
1 新種のウィルス感染
2 新種の細菌感染
3 既存疾病の複合感染

1に関しては、最近、養鯉関係からの報告が二三あるようですが、未だ不明な部分が多いように感じています。

2に関して、私の出入りしているニフティのアクアリウムフォーラムの「日本の淡水魚」会議室で『冷水病』についての有益な報告がありました。

冷水病に関しては、ネットにおいて以下のURLに大変詳しい論文及び情報が掲載されています。(会議室で報告があり、早速見ました。)

http://www.agri.pref.kanagawa.jp/suisoken/naisui/n_index.ASP
神奈川県水産総合研究所 内水面試験場ホームページ

主に、アユに関しての報告ですが、その症例はともかく、発生状況は極めて酷似していると思われます。流行の病気が「冷水病」と仮定すると腑に落ちることのほうが多いように思われます。

病気の症状として、体表面に症状として表れるのは二次的なもので、体内感染がその治療を困難にしているものとも考えられます。塩での治療、薬浴が効果が薄いのは以上の理由によるものなのではないでしょうか。

そもそも、「冷水病」とは、北米のサケ科のの疾病で、サイトファーガ・サイクロフィーラ(Cytophaga psychrophila)のちにフラボバクテリウム・サイクロフィラム(Favobakterium Psychrophilim)と命名されたグラム陰性の長竿菌が原因菌だそうです。

アユにおいての症状は、外部所見として体表退色、鰓貧血、鰓蓋下部出血、尾柄部の潰瘍及び欠損。内部所見として、脂肪組織出血、鰓・内臓の貧血があげられるそうです。そして、主に体内に侵入して全身感染症を起こす特徴があるそうです。

また、典型的な条件性病原菌で、魚の劣悪な飼育環境(密飼いなど)、諸々の魚にストレスを与えることが、発症のトリガーになっているとのことです。要するに、魚側の何らかの免疫の低下がまずは原因と規定出来ると思われます。

アユにおける外部所見と私の経験した金魚における当該病気の外部所見とは相違がありますが、アユの場合でも外部所見として観察出来ない症状も報告されているので、魚種による外部所見の違いも考慮の範囲内とも考えられます。

ここで、当該金魚の病気を「冷水病」と仮定すると、全身感染症であるならば、薬浴等の主に体表面のみの治療薬では、効果は望めないことが理解できるわけです。

いくつかの抗菌剤による経口治療が試みられているようですが、それも耐性菌の出現を見て特効薬とはなり得ないようでもあります。

唯一、30度以上の水温では菌が死滅するとの報告がありますが、私の場合は、水温の上昇とともに衰弱した魚はもたずに死亡した場合もありますので、加温はかなりの注意が必要なのではないかと感じています。

現時点では、この病気は発症してからでは確実な治療方法はないと考えられます。ワクチンや特殊な薬品等は、私達小規模な金魚愛好家にとってあまり有効な手段とは思われません。

研究報告から総合的に判断すると、どうやらこの菌は、常在菌であり避けて通れそうにはないようにも思われます。免疫の不活性化の要因を丹念に取り除く作業が私達にとって、現時点での予防方法と考えられます。

1.密飼いなどの飼育環境の悪化を極力回避する。
2.魚にストレスを掛けない。(輸送・品評会・水温管理等々)
3.免疫力の向上を考える。水質適正化(近年、バクテリアを応用した水質改善方法が考案されているようだ。)。魚の体質改善(日本動物薬品からメディゴールドなる餌料が発売されている。)等が予防医学的見地から提唱されているが、効果のほどは、今一つ定かではないように思われます。
4.万一、池にそのような症状が表れたならば、徹底的な消毒作業が必要だと思われます。

いずれにしても、まだまだ判らないことばかりだと思いますので、多くの愛好家の皆さんのお力をお借りして、早期に効果的な治療方法を探していきたいと思っています。