親池の飼育について
例年も若干はあるが、今年はこの時期に2歳が顕著に落ちることになった。
今年は天候も良くこの様なことは忘れていたのだが、いつも2歳が続けて落ちる。
原因は明確には分からない。当歳にかかりきりで、場所も、親池と室内90p水槽以外はすべて当歳に取られており、例年どおりの密飼いになっていた。(カラムナリス菌は27℃〜28℃が最適温)
●対象水槽:親魚水槽 1トン 濾過槽100L
●平成13年7月11日
2歳3匹が死に、3匹が重体(その後死ぬ)、別に目に付いた4匹を避難。
こんなに暑くても、また例年どおりかと愕然とした。
●飼育環境
平成13年7月6日から出張に出る。7日午後に帰り、水槽を見て餌をやる。
8日に、水道水を直接給水。全量の1割(100L)程度。(若干の塩素は抗菌作用になる)
濾過槽の回転は速く、その朝は直感では少し強すぎた感じがした
(→がしかし電圧コントローラーで半分強程度。しかもこれについては、出張前から。)
天候はここ10日間は晴天で、気温は最低が23〜25℃程度、最高が35℃前後と夏以上に蒸し暑い。
7月9日の朝に2匹落ちたのを発見。1つは将来有望の大きな丸手(埼玉の血が濃い雌)、もう1つは
将来有望な更紗の長手の雄(四国の血が濃い)。死後何時間か経過。
7月10日の朝に1匹落ちたのを発見。将来使いたかった広島獅子頭の雄。死後何時間か経過。
夜に水質調整剤(バイオヘルシー)を入れる。
7月11日の朝に3匹落ちているのを発見(死後何時間か経過)。様子を見て、親候補と重症7匹を隔離。
重症魚の鰓を開けた所出血し直後に即落ちるものや、0.5%塩水に移してすぐ息を止めて落ちるのが出た。
外観できる疾患は全くなく、色艶も良く粘液も出ていた(粘液は水質調整剤のウコンによるものか?)
しかしながら、落ちたのは全て2歳のオランダであった。昨年の春秋のことも考えると、この系統のオランダは体質的に弱いと考えられる。(→何故か?
強いオランダを作りたい!)
●重症魚の鰓と死後20分経過後の内臓を調べる。
@鰓
粘液はそんなに出ていない。鰓先の鰓弁の破壊からの出血と、浮腫(といっても可視できるくらい
大きく、鰓の上に点々と粒状に見える(腔所かも知れない))が散見される。
浮腫(腔所)はアンモニアによる水質汚染、鰓弁破壊はフレキシバクター・カラムナリスによるものか?
○原因は、カラムナリス菌感染症かアンモニア化合物による急性鰓疾患と思われる。
○直因は、水道水給水による塩素中毒か水温低下。
A内臓
死後直後ではないが綺麗であった。ウィルス感染に見られる様な肝臓の点状疾患もない。
●アンモニア化合物による飼育水の汚染
春先に床直しと全換水を行い、仔引きを行ってから、この飼育槽の換水はあまり行っておらず、
6月初旬に濾過槽を動かしてからは足し水だけできた。
しかも、濾過槽を動かす前は、残りのオリジナル餌を少しずつ与えていたが、濾過槽を動かしてからは、
ひかり胚芽入りを、日に3回、半時間〜1時間でなくなる位多く与えてきた。
(残餌も多く、濾過槽に負担も多かったように思われる。)
●推論
飼育水がアンモニアにより汚染され、徐々に鰓疾患が進行していたところに、水道水の直接給水により急死に至った。死後の魚体でカラムナリス菌が増え、悪循環を繰り返し、影響の甚大な個体から続けて落ちたと考えられる。
●その後の経過
・7月11日夜 退避していた中から2匹、本水槽の中から4匹落ちる。(2歳の東錦も混じる)
→夜に、100L0.5%塩水槽にエルバージュを入れ、残り10匹を退避。
・7月12日 退避していた中から5匹、本水槽から3匹落ちる。
→夜に、本水槽にエルバージュを入れる。
・7月13日 退避していた中から3匹、本水槽の2歳の東錦1匹落ちる。
本水槽の3歳東錦に、尾腐れが見られる。(→推論どおり、カラムナリス菌によることが分かった。)
●結論:
今回は約40%が落ちました。(2歳が約70%、3歳以上は落ちない)
以前ヘルペスウィルスによる疾患は経験しているので、ヘルペスウィルスが直因でないことは分かっていた。合併症も考えられるが、実験区(他水槽)からしてもヘルペスではない。高温での被害が大きいと類推される金魚イリドウィルスの経験はないが、肝臓の失血や点状疾患がないことからもウィルスとは考え難い。
鰓病の原因となるカラムナリス菌は常在菌として有名ではあるが、弱いものだと体力のある個体には影響がないものの、強い種類の菌が鰓に取り付くと、一夜の内にきれいな魚体のままで落ちることになり今回の様に毎日数匹に及ぶことにもなる。
しかも、困ったことに、この菌の発育環境は水温15〜35度、PH6.5〜8.5(最適PH7.5)、硬度も高い方が良く、0.5%の塩水で良く発育し、金魚の最適飼育環境と同じである。
感染経路は、配合飼料、生餌、冷凍飼料、勉強会等による混永等があるが、受傷しないと感染しないと言われるので、換水等による水質の変化をなるべく少なくした方が良いでしょう。(後日分かったのですが、今回の感染経路はある展示会からのようです。)
皆さんにも、多かれ少なかれ、次の様な経験があるのではないでしょうか。
水が古くなってきたので、夏だからすぐに青水になるよと、置き水で全換水したところ、
次の日からポツリポツリと落ちだしたと。
夏だからといって青水を新水に全換水することが必ずしも魚体に良いとは限りません。
飼育水中のバクテリアのバランスが急激に変わることは実験で知られています。
病気の原因になるバクテリアをすべて除くことはできませんので、今更ながら、どの様にバランスを崩さないで付き合うかが問題なんだと知らされました。
昨今では、病原菌と同じ食性の害のない菌を添加することで病原菌の活動を押さえたり、水質を活性化するために嫌気細菌であれ好気細菌であれ高密度で含有されているバイオ剤が市販されてきています。使用方法には未知数の部分もありますが、バランスを保つために有効ではないかと考えております。
最後に、昨今あちらこちらで、死因の理由としてすぐにウィルスをあげる方が増えている様に感じておりますが、死後直後の魚体を、少なくとも解剖や光化学顕微鏡で観察すること、或いは病魚の飼育水を使った実験区を作ることなどで、冷静にその原因を推し量ることが大事だと考えます。そしてウィルス感染等今までに経験のない様子であれば、ウィルスの存在は電子顕微鏡でしか可視できませんので、会として設備のある大学(水産学部)に依頼されることをお奨めします。その際には、魚体はすぐにラップで包み冷凍保存することが肝心となります。
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