大坂らんちうとは



「大坂らんちう」という表記について
オオサカランチュウについてはさまざまな表記がなされています。ここでは「オオサカ」は敢えて「大坂」、「ランチュウ」は「らんちう」の表記に統一します。

何故なら、この金魚は江戸時代からの格式と由緒と伝統のある金魚です。従って「大坂らんちう」と表記するほうがふさわしく思われるからです。

大坂らんちうの特徴
大坂らんちうは第二次大戦後、西川氏の池に20数匹を最後に絶滅した品種の金魚です。不幸にもその20数匹も生き長らえることが出来ませんでした。

大坂らんちうの歴史は華麗なまでに彩られています。古くは江戸時代より飼育が盛んで、丸子より分立したと言われる南京・獅子頭らんちゅうに比べて一際異彩を放っていると言っても過言ではありません。

ひとつには、名前のとおり商人の町「大坂」で伝統と文化に育くまれて愛玩されてきたことが大きな要因になっていることでしょう。

私達は、今ではその最盛期の大坂らんちうを資料と想像力でしか知ることが出来ません。あまりにも不当な扱いを受けて歴史の闇に葬り去られることをほっておく訳にはいきません。日本の伝統的な金魚鑑賞のルーツは、そしてそのエッセンスはこの大坂らんちうにぎっしり詰まっている事に皆さんはきっと驚かれる事でしょう。

大坂らんちうを再評価することを私達はここに提案します。


「科学と趣味から見た金魚の研究」松井佳一氏著 昭和10年
FRANK氏所蔵本より画像提供を受けました。

[大坂らんちうの容姿]
「金魚のすべて」長澤兵次郎氏著より要約
・頭部は目幅があって目先のあまりない小ぶりの頭で肉瘤はない。
・体形は全体に丸味を十分に見せ、背鰭はない。
・各鰭は小ぶりで、尾鰭は尾芯が水平に出ている、いわゆる平付け。
・尾鰭はは短めで両鰭(下葉)は横に広がるように張り、尾先は丸味を持っている。

[大坂らんちうの容姿・その2]
フィッシュマガジン掲載「オオサカランチュウの復元に燃える!」桜井良平氏レポートより要約
・体形は背鰭を欠き、背成りはなだらかな丸味を帯びて、胴から尾筒にかけ太く短い卵型である。
・頭部は肉瘤が出ない。
・尾鰭はやや大振りでその形は三つ尾、四つ尾に拘わらず尾巾が広くて尾の切れ込みが少ないいわゆる「丸尾」、尾の立ち上がりが少なく体軸に平行にのびており「平付け」という。
以上に見てきたように両氏記述から推定するに、松井博士の挿し絵に近い容姿を誇っていたことが伺えます。頭部から胴まではどちらかといえばナンキンに、尾は土佐錦に近似していると考えられます。平べったく体高がなく幅がある金魚でもあったようです。挿し絵の金魚は特にメスという断り書きがあるところから腹周りはオス以上に強調されているものと思われます。

さらに忘れてはならない特徴としては、頭部の鼻孔に「鼻髭」と呼ばれたハナフサが存在した事です。手毬のような大きくもなく小さくもない上品なハナフサも大坂らんちうの鑑賞のポイントだったようです。

[大坂らんちう鑑賞のポイント]
大坂らんちうは、体形もさることながら、その鑑賞に独特なものがありました。江戸時代に流行したその鑑賞手法は、今でも南京やらんちゅうなどに陰に陽に受け継がれていると思われます。

・大坂らんちうは当時「模様魚」と呼ばれ、その斑紋にさまざまな規定を設け、その美しさによって優劣を判断した。品評会の発祥はこの大坂らんちうまで溯れるかもしれません。

・基本的に人工調色や手術(不要な部分の色を人工的に取り除く、または付け加える作業)を行わないほど厳密に自然に出来た文様を尊んだようです。そのために理想の文様を持ち合わせた魚は希少価値が高かったと考えられます。

・それぞれの鑑賞ポイントは「道具」と呼ばれ、その「道具」を多く、または美しく表現されたものを上物を意味する役として「上品」と呼ばれたようです。また、同じ意味だと私は判断しますが、道具の揃った魚に冠せられるものに「別品」があります。

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